名古屋の地に千三百年の歴史を刻む笠覆寺は、笠寺観音という別名で人々に親しまれている。本計画では、寺院の中心である本堂を改修しつつ、その周りにとりついている諸堂をつなぐ動線を整理し、バリアフリー対応をしながら建替えていくことが求められた。
敷地の南側には旧東海道が通っており、そこから池を渡ると、本堂を中心に小堂が立ち並ぶ境内に入る。その昔、人々が境内に散らばる小堂を「旅」に見立てて巡っていたであろうことは想像に難くない。小堂の中には神社も含まれているから、東海道を行く「おかげ参り」に向かう人々にとっても道中に立ち寄るテーマパーク的な存在であっただろう。この伽藍配置も数百年間保存されてきたものであるので、本堂に接続する新しい建物も雰囲気に馴染むようにできるだけ小さい建物に分け、渡り廊下で繋いでいった。
現代の目からは古くみえる堂でも、創建当時は最新技術の賜物だったはずである。そんな視点から、それぞれの部屋に現代的解釈を加えた歴史的意匠や、コンピュータによって生成されたオブジェクトを置いていった。一番大きなものは、本堂に繋がる「観智の間」と呼ばれる部屋の天井デザインである。ここでは法話のみならずミニコンサートなども行われる予定だったため、真言密教の信仰対象である両界曼荼羅に似た特徴を持つAmmann - Beenker充填形という幾何学図形を下地にし、コンピューターを用いて音響的な最適化を行って凹凸を決定している。
本堂の修復においては桔木などの構造材を更新して耐力壁を設け、土葺きであった瓦を乾式化して軽量化することで耐震性を高めた。また前面においては、増築されていた鉄骨造の下屋を除却して桟唐戸を復原して創建時の姿に近づけ、高齢者や車椅子への対応としての入口スロープは本堂に構造的な負担をかけないように片持ち構造としている。
時代の流れと老朽化が進行する中で、多くの寺院が改修や増改築の必要に直面しているが、既存建物に対する建築基準法の適用問題が大きな障壁となっている。古い建物と新しい建物を繋げると、防火や耐震などの各種基準を満たさなければならなくなるのだ。
このプロジェクトでは、市や学識経験者への協力を得て、本堂を指定文化財とし、建築基準法3条の適用除外を実現した。これにより、本堂を江戸時代の姿に近づける大規模な修復が可能となり、堂宇間を渡り廊下で結び、複数のスロープを設置するなどの措置も可能になった。
手続の開始から建物が完成するまで、計10年の歳月を必要とした。