October 2008アーカイブ

設計者Xの健身

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美術館の現場の近くに借りたマンションに住み続けている。北京のマンションのグレードとしては中の上くらいだと思う。外国人が住むマンションとしては下の下だけれど、独身者にとって住み心地は決して悪くなく、居着いてしまっている。部屋は北向きだけれど、21階なので、天気の良い日は遠くまで見渡せる。北向きの部屋は景色を順光で見る事ができるので、決して捨てたもんじゃない。

中国の場合、施設の全てが完成していなくても、入居が開始される場合が多い。2年前、ここに越して来たときには、外構がぜんぜんできていなかった。数ヶ月遅れて、庭が整備され、さらに2年遅れて、残りの住棟が完成し、最近ようやく全て完成した。

巨大開発では、広い敷地にノッポの住棟が立ち並ぶ事になるので、残りの部分を埋める必要が出てくる。散歩や、ベンチでくっちゃべる事が人々の生活に染み付いていることもあり、外構の設計が重要になる。ランドスケープの設計は「園林設計」と呼ばれ、ローカルの事務所には専門の設計者を抱えている所も多い。彼らは数をこなしているので、樹種に対する知識も含めて引き出しが多い。日本人の設計者よりよっぽど巧いかも、と思う事もある。

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で、最近、その「園林」の中に、ガラスの物体が出現した。温室か何かかな、と思っていたが、近づいてみると下に下りてゆく階段がある。ああ、駐車場の入口ね、と思っていたら、そのうち「健身」の看板が掲げられた。フィットネスクラブだった。

え?本当?地下にあるの?と中に入ると、スタッフが走って来て、これでもかと案内される。といっても、プール以外は、ぜんぜん完成していない。まだ職人が作業しているゴミだらけの部屋を見せられ、「ここがジムになります。トレーニング機械が沢山入る!」って言われてもねえ…。卓球室は卓球台がポツンと置かれているだけだし…

料金は、開店特別価格で1年1300元、日本円で2万円くらい。日本だと、月1万円はかかるから、だいたい6分の1。安いな…久しぶりに泳いでみるか、と入会してしまった。北京のイトーヨーカドーで水着やトレーニング用の服装をそろえ、通い始めてみたらこれがなかなか良い。最初は、突然運動したら心臓止まるんじゃないかと恐る恐る泳いでいたが、ここ最近はいい感じに習慣化してきた。近いので、サウナとシャワーが風呂代わりにもなる。ひょっとしたら続いてしまうかもしれないよ。

ここは、目標を上げて、すれ違う女の子達が「ていへん、かける、たかさ、÷2…」とサブリミナル的に三角形の面積公式を思い浮かべてしまうくらいの、逆三角形のカラダを目指してみるか。愛読する雑誌が「サイゾー」から「ターザン」に変わる日もそう遠くはない!…かもしれない。

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毎晩、この輝く入口に蛾のように吸い寄せられてゆく。

会員になったからには、ジムの方も使ってみたい。行く度に「ジムはいつから使えるの?」と聞いていたが、「馬上!(もうすぐ!)」という返事しか帰ってこない。こいつら、さてはジムを作る気ないな…と思い始めた頃、スタッフの女の子が駆け寄って来て「ジムに機械が入った!」という。おお!と行ってみると、相変わらず施工中の部屋の片隅に、ルームランナーだけがちょこんと置かれていた。彼女は鼻息荒く「どうだ!」と言わんばかりの自慢げな表情。ツッコむ気にすらならない。

仕方ないので試してみるから電源を入れるようにと言うと、コンセントの差し込み口が合わない。客を案内する前に一度試そうよ、お願いだから…とも思うが、彼女はあの日本人に早く教えてあげなきゃ!と親切心で案内したのかもしれないので、責める訳にも行かない。延長タップを取りに行ったりとドタバタやったあと、ようやく接続。その後、電源を探して再びドタバタやり、遂に僕がスイッチを発見して電源投入。

電源の位置も知らないくらいだから、スタッフはルームランナーの使い方なんて知るわけが無い。廊下で壁の塗装工事をやっていた大工までが参加して、3人がかりでボタンを押しまくって試行錯誤した末に、使い方を習得した。もちろん、その間、僕がベルトコンベアーの上で突然爆走させられたりしたのは言うまでもない。僕はトレーニングしたいのであって、安っぽいコントを演じる気はさらさらない。

なにせ風呂代わりだ。結構な頻度で通っているので、受付は既に顔パス状態である。最近は外国人の客が増えて来ているらしく、受付の子は英語の勉強を始めたようで、「あなた外国人だから英語くらい出来るでしょ?」という感じで参考書を見せられる。"Chinese is the greatest people!"という例文を読みあげると、「すごい!三か国語も話せるんだ!」と羨望の眼差し。もちろん悪い気はしなかったが、「中華人民は世界で最も偉大な民族である!」という、微妙に間違った、しかも変な政治思想が紛れ込んでいる中国語訳を見て、「とりあえず、参考書を換えた方が良いと思う」とアドバイスした。もうちょっとましな例文ないのかよと。

建築家ブログ

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グーグルでちょっと検索すると、建築家のブログ、というのがバンバン引っかかってくる。自分の作品を紹介するもの、素敵なインテリアや映画を紹介するもの、最近読んだ哲学書を解説するもの、建築と格闘する毎日を綴ったもの、色々あるけれど、政治的な話やプライベートな話題は比較的ひかえめだ。

政治や経済の影響をモロに受ける業種であるにも関わらず、政治的な話題が避けられるのは、「どこから仕事が来るのか分からない業種」というのが大きいんだろうと思う。自分のプロモーションのために開設したはずのブログで、ヘタに特定の市町村や企業を批判して、将来の顧客を潰していたんでは元も子もない。

プライベートな話題という奴もクセ者だ。生活に密着した空間を提供する住宅専門の建築家ですら、その私生活はベールに包まれている。というより包まなければならない。建築家は、おいしいワインとそれに合うチーズ、美味しいイタリア料理店を薦める事はあっても、飽食を原因とする糖尿病で通院している事はひた隠しにしなければならない。女房と喧嘩した、娘がコギャルになっていた、カップラーメンとコーラが好物、なんて事は口が裂けても言えない。娘は広いテラスの上でフルートの練習をしてるようでなきゃ具合が悪い。日々、メディアで流布される「良い生活」を演じ続けなければならない、哀しい職種なんだな、たぶん。

あらあら、皆さん大変ですねぇ、と高みの見物を決め込んでいるわけではなく、僕自身も、そのあたりちょっとは気を使う事がある。この前、北京でフリーペーパーを発行してる方から、一週間のランチを紹介して下さい、という依頼があった。一週間、毎日ランチの写真を撮って記事にするそうだ。

自己顕示欲のおもむくまま、媒体には喜んでヒョコヒョコ出て行く方なのだが、これには困った。あなたは、カップラーメンや弁当を食べ続けている建築家に、終の住処の設計を頼みますか?もし、その一週間だけ頑張って、こだわりのパスタやサラダ、ちょっと意外!にヘルシーな中華料理やらを並べたとしても、どうしても嘘くさくなってしまう。というか嘘そのものだ。ただでさえ少ない仕事がなくなってしまいますので、と丁重にお断りした。

結局ココに書いちゃってるけれど。

このニッキは、元々は、1996年に始めた、自分が好きな音楽を紹介するただの音楽サイトだった。それを書いていた奴が、たまたま建築設計をやっていて、たまたま中国で仕事しているだけの事でして…最近、仕事で知り合った方々に発見される事が多くて、とっても恥ずかしい。とはいえ突然カッコつけた文章にシフトするのはもっと恥ずかしい。

写真は美術館のオープニングで揚げられた風船。いらして下さった皆様、有り難うございました。

建材城

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スケルトン/インフィルという言葉がある。ざっくり言うと、建物の構造部分と内装を別々に考えて、内部を必要に応じてシャカシャカと入れ替えた方が便利なんじゃないの?という話で、以前日本でよく聞いた言葉だ。だが、中華圏では、そんな事わざわざ言わなくてもスケルトン/インフィルの考え方が浸透している。設計作業も、施工も、契約も、たいていは「建築」と「内装」がガッチリ分かれていて、例えば外壁の材料が内部にまで入り込んでくる場合には、とっても苦労する。

マンションもコンクリート剥き出しの状態で引き渡される。もちろん、みんながみんな、インテリアデザイナーに頼むわけではなく、持ち主が自分で内装を行う場合が多い。そのためのアンチョコ本もいろいろ出版されているし、会社によっては「マンションの内装監理休暇」みたいなのも認められているらしい。つまり、「今日はペンキの色を決めなきゃならないんで早退します」なんて理由が堂々と通るということ。

であるからして、お客さんも建材やデザインにとっても詳しい。よって、インテリアデザインを名乗るからには、よっぽど目立つ事をやらなきゃならんというプレッシャー生まれ、あげくの果てに目がチカチカするような「やりすぎ感」ムンムンの内装が街の至る所に生まれてくると言うわけだ。

もう一つ。中国人は基本的にカタログを信用していない。カタログの写真なんて嘘っぱちだと思っているところがあり、決定するためにはサンプルを確認しなければ気が済まない。全部の材料や設備をいちいちサンプル請求するわけにもいかないので、建材を一覧できる場所が必要になる。そうして生まれたのが「建材城」と呼ばれる建材市場だ。ココで内装業者に建材を買い与えて、作らせるという寸法だ。

内装の仕事では、少なくとも数回は建材市場に足を運ぶことになる。最近行ったのは、城外城という家具中心の市場。北京最大級の規模を誇る。

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オフィス用の椅子の店。一番手前の列のパイプ椅子は2000円程度。「オフィス用家具」だけで数万平米あるので、たいてい一つくらいは「許せる」デザインのものが見つかる。有名デザイン家具の「コピーっぽい」製品もかなりあるが、ここでは、そのものズバリのコピーは殆ど見かけない。

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うーん。良い線行ってるけど、どっかで見たような…

上を向いて

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「VIP碁会所」と呼んでいる物件も、もうすぐ完成しようとしている。まだ膜は取り付いていないが、光の効果も期待どおり行きそう。もう少しすればキチンと写真撮影できるので、詳しい話はその時にでも書こうと思う。

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天井の設計に注力している。たいていの場合、天井は設備の縄張りだ。あなたのオフィスの天井を見上げれば、蛍光灯、非常照明、空調の吹き出し口、煙感知器やスピーカー…などが散らばっている事だろう。中国ではこれにスプリンクラーが加わり、現場ではこれらの配置の調整に四苦八苦することになる。

でも、逆にいうと、天井ほど将来的にオリジナルに保たれる部位もない。床は家具やカーペットが置かれるし、念を入れて家具のデザインをコントロールしても、そのさらに上に変なモノが置かれてしまったら元も子もない。壁だって汚れるし、地図やポスターが貼られるかもしれない。…でも、天井をいじくる人はあまりいない。この物件ではそのへんを割り切って、天井>壁>床>家具の順番で重きを置いている。多少変なモノを置かれても、それに負けないような強度を天井に持たせた。

インテリア・デザインでは、通常は家具の設計や選択に注力するのだけれど、これに関して言えばあまり頑張っていない。デザインされたカッコいい家具も良いが、使い慣れた普通の家具、たとえばパイプ椅子と会議用の長机を並べるだけでも、まあいいかと思っている。何せ「頭脳スポーツのための体育館」だ。体育館の設計者が、選手のラケットやシューズに何も言わないのと同様に、使う道具にあれこれ言うべきでないんじゃないか。もちろん、施主から頼まれた場合は、話は別だけれど。

いよいよオープン

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諸事情により仕事の話はあまり書いてこなかったが、そろそろ書いてもいい頃だろう。

10月18日、磯崎アトリエの担当者として、ここ5年近く取り組んできた中央美術学院の美術館がオープニングを迎える。過去の現場写真を眺めていると、ローカルや職人達との思い出が蘇る。といってもほとんどが怒鳴ったり怒鳴られたりした記憶。今でこそお互い笑って話せるが、まさに悲喜こもごもだった。

書いたスケッチや図面の数は、おそらく数千枚になると思う。数千カ所を検討したのではなく、全ての箇所で何度も試行錯誤したためにとてつもない量になってしまった。
「これ、できる?」
「うん、もちろんできる。簡単だ」
「やっぱりできない」
「なら、こうすればできるはずだ」
「やってみる」
「やっぱりできない」
そんなやり取りを幾度繰り返した事か。ローカルや施工の担当者は、辛抱強く付き合ってくれた…最後は「日本人建築家の仕事は二度とやりたくない」と笑いながら言われたが。

中国を代表する有名大学の付属施設、アートについて理解のある施主。ローカル達にも「こんなに恵まれた仕事は日本でもない、中国の限界を知る一生に一度のチャンスだ。粘れるだけ粘ろう」と言い聞かせ、似たような図面を何度も描き直させた。

しょっちゅう施主の元を訪れ、説得を試みた。粘りすぎて、施主から「東福、お前はよく頑張った。それは分かったから頼むから止めてくれ」とストップが入る事もしばしばだった。とはいえ、理解のある施主であることは確かで、僕の提案はかなり受け入れてもらえた。

正直、構造が上がり始めてからも、この建物は果たして完成するのだろうか?と半信半疑だった。工事がだいぶ進んで内装に入った頃、手持ち無沙汰の職人達がボーッと天井を眺めているのを見て、やっと、これは良い建物になる!という確信を得た。

4年もの間、中国的システムに対して愚痴りながらも、それを心のどこかで楽しんでいた。まあ、そのくらいの気構えでなくてはココでの仕事はできない。来たばかりの頃は、中国の建築生産のシステムが分からずにとまどうばかりだったが、試行錯誤を繰り返すうちに、中国でクオリティーの高い建物を作るコツが掴めてきた気がする。次からはもう少し効率的に仕事ができると信じたい。

いろいろ思い出されるなぁ。

…と、センチメンタルな気分に浸りたい所なのだが、オープニングが終わって一区切り付くまではまだまだ気の抜けない状況が続く。格好悪い家具を発注しないように目を光らせたり、雑誌の取材対応をしたり…まだ仕事は残っている。

つーか、オープニング本当に間に合うの?って状況なんですが…

雑誌発表の状況はこちらで紹介しています。日本の専門誌での発表はもう少し先になりそうです。最も一般向けだと思われるSANKEI EXPRESSの記事はこちら

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